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「そんな難しい顔してたら、すぐ年取っちゃうんだから」
再び瑠璃はページをめくりながら言った。
ほんのり日に焼けて艶めく、滑らかで綺麗な額を、細い髪が流れるようなカーブで隠そうとする。僕は俯いて強調された、瑠璃の長い睫毛をただ見つめていた。
「ねえ、どうして個室なの?」
瑠璃が漫画を置いて、こちらを見ている。
涼しげな目に射抜かれて、僕は心臓を掴まれたような気がした。
「僕の父さんは自営業なんですけど」
くそ親父。つい、そんな風に思ってしまう。
「ここのお偉い先生と知り合いらしくて」
お偉い、父の知り合いの葛城(かつらぎ)先生。
そんな人が身近にいるせいか、父さんは僕に医者になれと言う。
自分の夢だったか何だか知らないけれど、押し付けられる僕はたまったものじゃない。
僕はただの骨折で、ここは国立病院だ。
公務員の権力って、一体何なのだろう?
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