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いつもならトイレに駆け込みたくなるほどの胸のむかつきが、今少しだけましなのは、きっとここに瑠璃がいるからだった。
瑠璃と居るのは、何故だか凄く心地よかった。
まるで揺りかごに揺られているような、そんな穏やかな気分になるのは、無邪気だった頃の自分を、瑠璃に重ね合わせているからかもしれない。
それは、本当はついこの間のはずなのに、何故かこんなにも懐かしい――……
「僕、大きくなったらお医者さんになる」
今よりは、幾分か高い声で。
父の胸に届かないくらいの背丈の僕は、その人の隣で笑っていた。
厚く逞しい青葉がぎらつく光を跳ね返す。
高く昇った太陽は、どの季節より強く地面を刺していた。
あれは、何故だったのだろう?
幼い頃から、少しずつ洗脳されていたせい?
でも――……無理だ。
それは今、僕の夢じゃない。
今も、自分を偽ってしまうのは、まだ、その殻を破りきれないから。
僕がさなぎにもなれない、青虫のままだから。
瑠璃は時間はばらばらだけれど、ほぼ毎日、僕の病室に顔を出した。
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