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瑠璃はカメラを見つめながら小さく口を開き、まるで何かを思い出すかのように一点を見つめている。
「見ているはずのものも、レンズを通せば、見ていなかったって気付かせてくれるんだよ」
「瑠璃、さん?」
「“瑠璃”だって!! 藍人にはちょっと、難しかったかな?」
その顔は抜けるような笑みを浮かべていた。
「カメラは私には切っても切れない存在。生きている意味そのものなの」
急にがらりと変わった表情。
さっきまでの哀愁を帯びたような様子はなんだったのかと思うほど。
それは明らかに瑠璃が意識して変えたもので、僕はそこに何か見えた気がした。
微笑む瑠璃の歩んできた道は、僕が考えているほど、なだらかではなかったのかもしれない。
僕は瑠璃の言葉に、知らない世界を見た。
生きている意味――……
そんなもの、僕は当然知らない。
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