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「………終わりだ。」
『何だと?』
携帯から耳を離し、ポケットにしまいながら、天野が唐突に告げた。
ベッドに腰を下ろし、今まで通話が終わるのを待っていた燈狐が眉をひそめる。
『なにが終わりなんだ?』
「依頼だ。クライアントが十分だと判断した。後一カ所で引き上げるぞ。」
『例の場所か?』
「ああ。お誂え向きに、ちょうど休校になったからな。手を出すなら今だろ。」
面白くなさそうに、燈狐は鼻をならす。
『ふん。この寝具はなかなか気に入っていたのだが……今日までか。名残惜しいな。』
軋むこともなく、弾む彼女をベッドは受け止める。
泊まっていたホテルの、ここは拠点にした一室だ。
『結局、今回も外れだったのだろう?』
「まだそうと決まったわけじゃない。」
『………式神まで呼び出して気合いを入れたからな。……諦めはつかないか。』
くつくつと笑う。
嫌悪を抱きそうな嫌な笑い方だったが、天野は鼻にもかけなかった。
『焔呪と言ったか。字は違えど同じ名を鬼神にもくれてやったな。見つからなかったらあの鬼神を代わりに殺すのか?』
「……悪くない考えだ。」
『迷惑な話だ。都合で生み出しておいて…あの式神にしてみれば不幸の極みだろうよ。』
なにが楽しいのか、燈狐はいつまでも笑い続けた。
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