嵐の前のなんとか

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「今の、は…ユキ…?」 …そうだ、あれはユキだ。 一年程前とほとんど変わっちゃいない。 背も伸びてねーし、意外と足が速いトコも相変わらず。 だからどんどん俺との距離が離れていく。 …今走ったら間に合う。 追い付く。 抱きしめられる。 もうあんな想いは二度としねぇ… 捕まえたら、 「―ユキッ!」 ぜってぇ離さない。 ーガシィッ!! 「!!!」 「ちょーっと何処行くん?アキラ」 「早くクラブ行こーよ。マスターがお祝いしてくれんだって」 「っ!?牧原っ神田、てめーら離しやがれ!俺はユキの所に行くっ」 「ユキってダレや?」 「まさか女!?」 「“ユキ”さんは男だよ」 「「なになに知ってんの!?永津!!」」 「あ、本当だユキちゃん先輩~☆」 「「古島も!?」」 「あの制服…俺達が入る所のだろ。まさかお前…」 「…たりめーだろ」 「「話についていけないんだけど!?」」 「へぇ…ならお楽しみは後に取っとけよ☆」 「フッ…そうだな、これからじっくり捕まえりゃいいさアキラ。余裕が無いなんてお前らしくない」 「……」 「「ちょっ、俺らも入れて!!」」 「あーもーおまえら煩い!さっさと行くぞ!」 「クラブに着いたら教えたげるね~☆」 「「絶対だぞー!?」」 「…そうか、時間はたっぷりあるよな…」 「アキラー?はよ行こー」 「…おーわかった。 クラブの親父に盛大にやって貰おうぜ “入学祝い”ってやつ」 先を行くあいつらに急ぐでもなく、俺は桜の舞う夜空を見上げ歩いた。 風はさっきよりも強く吹き荒れ、ソメイヨシノが禿げそうな勢いで散っていく。 それは俺の心の内と良く似ている気がする。 悪くない、景色だった。
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