「忘れられない」という呪い

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次の日の朝。 私は朝食を作っていた。 母が亡くなってからの習慣だったし、 気を紛らわすために何かしてたかった。 父の分を作る時に、 私は戸惑った。 父が起きてきた。 相変わらず何も言わずテーブルの席に座る。 無言。 ただ食事を用意する生活音だけがささやかに響いている。 食事中も会話はない。 私は父を見るのが怖くて自分の手元だけに視線を落とした。 どうしよ…。 どうしよ…。 味がわからない。 手が震える。 いま目の前にいるのは私を昨日レイプした男。 怖い。 もう一度襲われたら…。 誰か助けて。 「理奈」 私を呼ぶ父の声に、 体がビクリと動く。 恐る恐る。 ホントに恐る恐る父を見るために顔を上げていく。 父は、 しかられた犬のようにしょんぼりとしていた。 そして申し訳なさそうに「ごめんなさい…」と呟いた。 なんだか子供みたい。 そう思ったとたんに私は吹き出してしまった。 今までの空気が空気だけに、 父の子供っぽさがハマりにハマってしまった。 「そっ、そんなに笑うな…」 「だって! だって!」 そう言いながら私は笑った。
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