第一話 【黒く賢(さか)しく美しく】

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怒鳴り声、かなきり声 鼻声、上擦った声 涙声、囁き声、叫び声…… 声っていろいろあるけれど、声質だってひとりひとり違って、いろいろある。 一般的には、男性は女性の柔らかい声が。女性は断然、低い声が好きだ。 もちろん私だってそう。 どこまでも、ハッとするほど低い声がいい。 低ければ低いほどいい。 そして、少しの艶(つや)、重厚感のある…… ときどき低く掠れるそれは、お腹の底からジワリと響き、 胸元へと一気に駆け上がり、その上らへんを少し震わせ…… そのまま頭までふわふわと昇り、軽い目眩と微熱を呼ぶような…… そんな声。 そんな声がいい。 そんな声で、もしも名前を呼ばれたら 耳元で囁かれたら…… 私は自分を見失い、その甘美な響きを もっと、もっと と欲するままに どこまでも貪欲に、 その声の主についていくだろう。 そんな声。 そんな求めて止まない声は…… きっと そう、威厳ある神の声でも 愛と光に満ちた天使の声でもなく ただ甘美な闇へと誘う 罪深き、悪魔の声……── 私はその日生まれて初めて “悪魔の声”を聞いたのだった。 .
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