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「人間万事塞翁が馬」 僕はこの諺が嫌いだ。 中国の古い故事からなる諺で、要約すると、「人間の幸・不幸は予測がつかない」といった感じの意味だ。 でも、それは結局、「物事は行きあたりばったりにしか進まない」という意味にもとれる。 不確実な幸なんて、迷惑なだけだ。 塞翁だって、いくら徴兵を免れたって、怪我のせいで畑を耕せなかったのなら、あまり意味は無かったはずだ。 的外れにも程がある。 ……なんて、旧き良き時代の中国まで遡って愚痴を言ってみる。 愚痴でも言ってないとやってられない。 いや、本当に声に出してるわけじゃないから愚痴と言ったら語弊があるかもしれないのだけれど。 それでも、この状況では、盛大に、大声で愚痴を言いたい。 ……いや、まあ、悪いのは僕の方なんだけれど……。 やることもなく、一日中家に居る僕に対して始まった母さんの小言に堪えきれず、とうとう家を飛び出してしまった僕が、悪いのだけれど……。 「……この状況は、辛い……」 まず蝉がうるさい。 8月上旬。天気のいい昼下がり。周りが青々と生い茂る桜やらブナやら栗やらの木に囲まれた公園に居れば、子孫を残そうと必死になって自己をアピールする蝉の声がうるさいのは当たり前なのだ。当たり前なのだが、出来れば、人間には分からないような方法でアピールしてほしい。切実に。
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