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ただこの少女、やたらと近い。
危うくキスしてしまうところだった。
そのくらい近い。
少女はなおも同じ距離で僕を見つめている。
「……」
僕もぴくりとも動かず少女の瞳を見つめ続ける。
「……」
……何か言うべきだろうか?
いや、絶対に何か言わないといけないんだけど、なんと言えばいいのか頭に浮かばない。
「……おひゃよう」
馬鹿なヤツがいた。僕だ。
およそ噛む要素のない朝の挨拶で噛んでしまった。
しかも今は昼下がり。挨拶をするなら「今日は」だ。
「……今日は」
しかも普通に返されてしまった。
スルーだ。
華麗にスルーされた。
せめて笑ってくれれば僕としてもギャグで流せたのに……。
「……ねえ」
僕が内心、震度7、マグニチュード9くらいの地震に耐えていると、少女が口を開いた。
「……な、なに?」
僕が必死になって(噛まないように)応えると、少女は首を傾げながら言った。
「こんなところで独り言を言うのは止めた方がいいですよ?」
……え?
「……独り言?」
「はい」
こくりと頷く少女。
「……僕、声に……?」
「出してました。はっきりと」
「……」
はっきりと言う少女。
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