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本当は友達が欲しかったのだが…
そんな贅沢なことは言わないから、ただ普通に過ごせればいいと、そう願いをこめて月に祈る、ただそれだけのことだ。
『エルフィス、入っていいかな?』
「うん、いいよ」
ドア越しに名を呼ばれ、金髪の少年エルフィスは慌ててベランダから出ると、広い部屋にあるドアの鍵を開け、外に立っていた人物を部屋へと通した。
「ゴメンね、夜遅くに」
「ううん、大丈夫」
真紅のウェーブがかかった長い髪を後ろで結わく、容姿が端麗なこの美男子はエルフィスの父親であるジーク。
彼は世界一の資産家だけあって、昼間は出掛けたりしていることが多いのだ。
「あれ?エルフィス…頭、ケガしてるみたいだけど…どうした?」
「………階段で転んだ」
「また?毎日転んでばっかりだな……」
心配そうな顔で覗き込むジークに、エルフィスはそれ以上のことは言わなかった。
自分の父親は優しい人だから、言えば仕事なんてほったらかして一日中悩みを聞いてくれるだろう。
でも、これ以上の心配はかけさせたくなかった。
自分なんかのせいで、悩みを抱えてほしくない、そう思ったから…。
「…それで?今日はどうしたの?」
「ん?あぁそうだ…実はね、明日屋敷でユヤの縁談があるんだよ」
「ユヤの?」
ユヤとは自分の妹の名前だ。
まだ5才になったばかりだというのに、縁談とは早過ぎる気がする。
「まぁ断るつもりなんだけどね…クロフォードさんが話だけでも、って言うから」
「それじゃ明日来るんだ?」
「うん。ユヤの相手の子が8才の子らしいから…エルフィスといっこ違いでしょ?時間が余ったら屋敷を案内してあげてくれるかな」
「……いいけど」
「それじゃ、明日は頼んだよ。もう今日は遅いから…早く寝ること!わかったね?」
「うん」
「おやすみエルフィス」
「…おやすみなさい」
パタン、と音をたてて部屋を去っていった父親の言葉が、エルフィスの頭の中でグルグルと回っている。
自分が動物と話せるというのは、かなり有名な話だ。
もし明日ここに来る男の子がそれを知っていたら…
やはり嫌われるのだろうか。
気味悪がられたりしないだろうか…。
もしそれを知らなかったら……
…友達に、なれるだろうか。
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