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「あら、いいじゃない。そっちの方が。変に気遣わないで済むし」
「わ!ヒッド~イ!ジーク様にバレたら大変よ?」
「なによ~、あなた達だって思ってるんでしょう?」
続いて聞こえてきたメイド達の笑い声。
何故こんなにエルフィスが否定されているのか…
それがフェイトには分からない。
ただどこか憂いを帯びたあの青い瞳の理由が、ほんの少しだけ…分かった気がする。
「…(エルフィス…)」
何も出来なくて、それどころか何も知らない自分がもどかしい。
今の自分がしてあげられることは、エルフィスを見つけだすこと。
人よりも少しだけ優れている嗅覚を頼りに、フェイトは広い廊下を再び歩き始めた。
「エルフィスの…匂いだ」
やっとの思いでたどり着いたのは誰もいない広い部屋。
なんとなくフェイトには、ここがエルフィスの部屋であるというのが見た瞬間に分かった。
周囲を見渡し、フェイトはそっと中へと足を踏み入れる。
「…な、なんだこれ…モノリ?あと…カガク?」
化学は正解だが、どうやら物理が読めなかったらしいフェイトは物珍しげに机の上の参考書をめくった。
しかし何と言うか…意味不明の一言に尽きる。
問題どころか漢字でつまづいているフェイトからしてみれば、物理なんて遠い世界の話だ。
しかもそれが高校3年生レベルの物理だというのにも気付かず、フェイトはただ漠然と難しいんだなくらいの気持ちで机の上へと戻す。
他にも剣術でも習っているのか、木刀やらなんやら置いてあったが、フェイトはふと開け放たれたベランダへと視線をやった。
白いレースのカーテンが風が吹くたびに波打ち、左右のドアが外側へと大きく開いているおかげで、ここからでも広いバルコニーが見える。
まるで導かれるようにフラフラとバルコニーに出ると、そこからの景色にフェイトは思わず息を呑んだ。
「……すっげ…」
この屋敷がある大都市バビロニア。
そのバビロニアを全部見渡せてしまうほどの景色。
首都というだけあって、見えるのは民家ばかりだが、なんといってもその家の数に驚かされる。
景観を大切に、ということでビルなどの高い建物はなく、ずっと先まで見えそうな街並と、それに相反するような青い空。
空にはこの地域特有のカモメのような白い鳥が群れをなして飛んでいて、それがまたこの景色の魅力を一層引き立てている。
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