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「ほら、エルフィス!どっかデート出来る所……あ!公園!公園行こう!」
「え?でも……遠くに行ったら……」
「大丈夫だって!バレないバレない♪」
「…………。」
戸惑うエルフィスをよそに、フェイトは慎重に屋根の上を歩きながらエルフィスの手を引いていく。
黒い半ズボンにサスペンダー、そして赤い蝶ネクタイに白のワイシャツという、いかにも貴族の子供らしい格好をしているフェイトだが、それに反してエルフィスはまるで女の子のような服を着ている。
水色の無地の着物に赤い帯を巻いたエルフィスは、まぁ似合ってはいるのだが…
「……エルフィス、なんで女の子の服なの?」
フェイトの疑問は正しいだろう。
何故男のエルフィスが女の子の着物を着ているのか…。
先程から気にはなっていたのだが、フェイトは改めて質問してみることにした。
「…あの……お稽古の…最中だったから…」
「稽古?」
「うん。お琴の……。お琴と華道の稽古の時は着物じゃないといけないから。女の子らしくした方が綺麗に出来るって…」
「へぇ~……すごいんだな、エルフィスって…」
稽古事があるとは、流石は天下のアストレア家。
エルフィスの話によればピアノやバイオリン、絵画などの文化系から空手や剣術、弓道などといった武道系まで様々な物があるらしい。
まさに文武両道といったところか。
「…でも、嫌になったりしないのか?」
恐る恐る屋根から壁を伝って近くのバルコニーに降りると、フェイトはまだ屋根の上にいるエルフィスにそう言った。
するとエルフィスは恐怖心がないのか、屋根の上からいとも簡単に飛び降り、バルコニーへと着地する。
「嫌になったりしないよ。自分でやりたいって言ったことだから」
「そ、そう……なんだ」
飛び降りて平気な顔をしているエルフィスに驚きつつ、フェイトはエルフィスの手を再びとって屋敷の玄関を目指す。
最初は乗り気ではなかったエルフィスも段々とフェイトに打ち解けてきたのか、フェイトが握る手をしっかりと握り返し、そろって屋敷の廊下を歩いていく。
……それでも、時折見せる淋しそうな顔は、きっと自分から嫌われるのを恐れているのだと、フェイトにも薄々わかるようになってきた。
「おわっ!広っ!」
「…………。」
自宅近辺ではなかなか見られない広い公園に、フェイトの遊び心は一気に覚醒した。
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