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「オレ、エルフィスに笑ってほしい。他の誰よりも、たくさん笑ってほしいんだ」
「…………。」
「エルフィスは大人しいし声掛けるのも苦手みたいだし……まぁそこも可愛いんだけど……とにかく!ちょっと後ろに引きすぎだと思うんだよな」
「………。」
「……変わりたいならさ、一歩前に出ないと…進んでみないとダメなんだよ。すごく勇気がいるかもしれないけど、オレが一緒に歩くから」
「………うん。ありがとう」
…この『ありがとう』は、心からのものではない。
フェイトはそう直感した。
自分は思ったままを述べ、それでエルフィスは変われると思ったのだが、なんだか先程よりも離れてしまった気がする。
当然それは、エルフィスと自分との心の距離。
何故かはわからないが、エルフィスの心が自分から遠ざかってしまったように感じたのだ。
今までは、どこか期待したような眼差しで自分を見つめていたのに…
今ではすっかり、『信用できない』といった不信なものになってしまっている。
…自分は何かまずいことでも言ってしまったのだろうか。
「…(とにかく…エルフィスのためにも、もう一回あの子達に声を掛けてみた方がいいよな。遊んでいくうちにエルフィスも慣れるかもしれないし…)」
早く帰りたそうな顔をしているエルフィスを見て、フェイトは一人思う。
あの子供達だって魔物がどうとか言っていたが、そろそろ落ち着いた頃だろう。
「エルフィス、ほら、もう一回行ってみよう」
「…………。」
「大丈夫だって!今度はちゃんと正面から話し掛ければ驚いたりしないはずだし♪」
「………ボク、帰るよ」
「エルフィス~!最初の一歩が肝心だって言ったじゃん!」
帰ろうとしたエルフィスを見ると、フェイトはエルフィスの手を引いて無理矢理自分の隣へと移動させた。
そして今度は子供達が逃げて行った丘の上の方を目指して歩き出す。
近付けば近付くほど、風に乗って声が届き、それは彼らが再び遊んでいるのだというのが伝わってくる。
「んー……あ、いたいた♪」
遊具がある場所から少し離れたなだらかな丘の上。
この自然公園のシンボルである大きな木の下で、先程の子供達が追いかけっこをして走り回っているのが見える。
エルフィスを逃がさないように手をしっかりと握りつつ、フェイトはその子供達に慎重に近付いていった。
「えーと…ちょっといい?」
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