約束、ふたつ

20/27
前へ
/73ページ
次へ
だから、自分自身に言い聞かせるように呟く。 …気休めだとわかっていても。 「エルフィス様、掃除の邪魔になりますので…どいていただけません?」 「…あ……ごめんなさい」 屋敷の廊下をボンヤリと歩いていたエルフィスに、メイドの不機嫌そうな声が飛ぶ。 慌てて端に寄れば、メイドは乱暴に掃除機を動かし、早々と立ち去ってしまった。 自分でもよくわからないため息を一つした所で、エルフィスは一面ガラス張りになっている綺麗なドアを押し開ける。 すると今の気分とは裏腹に、爽やかな風が金髪を揺らし、花壇の花が気持ち良さそうに揺れ動いているのが視界に入った。 「…(ここなら邪魔にならないかな…)」 広々とした中庭。 吹き抜けになっている上空を仰いでみれば、ややオレンジがかった空がぽっかりとあいている。 ベンチに腰かけ、足をブラブラとさせながら、エルフィスは空を優雅に舞っている鳥達を見つめていた。 「…(空を飛べたらきっと気持ちいいんだろうな…。ずっとずっと、遠くの国にも行けるし…)」 手を伸ばしかけて… 引っ込める。 なんだか鳥にまですがっている自分が、酷く、どうでもいい存在に思えてきたのだ。 柔らかに吹く風と、 緑の匂い。 この自然の中に溶けてしまいたくて… そうしたら、どんなに楽だろう。 『生きていれば、必ずいいことがある』 なんて誰が言ったのかは知らないが、今まで生きていたことに喜びを感じたことなんてない。 後悔なら毎日しているのに。 「…(これから先も…こうなのかな…。だったらもう……)」 花壇に揺れる紫の花を凝視したまま、エルフィスは深く息を吐き出すとゆっくりと瞳を閉じた。 自分がいるから、こうなる。自分がいるから、迷惑になる。自分がいるから―… 頭から離れてはくれない嫌な思考の回廊。 それは呪文のように、物心ついた頃からエルフィスに纏わり付いている暗闇だった。 そんな中でも…諦めながらも、心の奥底では願っている。 自分をこの暗闇から引っ張り出してくれる、温かい手の存在を―…。 「エルフィスっ!!」 「…っ!!」 ドアの開く音と、バタバタとした騒がしい足音。 この羨ましいくらいに元気な声は… 「……あ」 「エルフィス!よかった…見つかって…」 「…………。」
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

826人が本棚に入れています
本棚に追加