約束、ふたつ

21/27
前へ
/73ページ
次へ
自分には眩しく映るオレンジの少年。 その姿にエルフィスは思わず声を発してしまったが、すぐに口をつぐんで目の前の少年から視線を反らした。 すると少年、フェイトは躊躇(ちゅうちょ)もせずにエルフィスの座るベンチへと飛び乗る。 「エルフィス、オレはエルフィスを否定したりなんかしないよ」 「…………。」 「ずっと傍にいるから」 「…………。」 …もう傷つきたくないから、 誰も信じたくないから、 だから心を閉ざす。 エルフィスにこう言ってくれたのはフェイトが初めてではない。 虐められていると知ってもなお、追い掛けてきて優しい言葉を言ってくれた人は他にもいた。 …でも、それは全部ただの幻想だったのだ。 仲間内でネタにするためについた嘘。 完全に信じきったところで裏切られ、どん底に突き落とされる。 もう、何も信じたくない。 期待してしまう嘘の言葉が、1番つらいから。 「オレはさ、エルフィスのこと…」 「――…って」 「……え?」 「…帰ってよ!もう帰って!!」 「……エルフィス…?」 「期待させるようなことばっかり言って!人を裏切って!何が楽しいの!?ボクは魔物なんかじゃない!!同じ色の血が流れている人間だよ!!」 「…………。」 「…ボク…だって……生きたい…よ……! そう願うのも……許されないの? 邪魔だから……迷惑だから……いちゃいけないの?」 今まで心の奥に閉まっていた想いが、一気に溢れ出した。 心を閉ざそうと…必死に閉ざそうとしたけれど、今まで閉じ込めてきた分が膨れ上がって、抑えきれなくなって、逆にそのドアから溢れてしまった。 ボロボロと流れる涙は顔を濡らし、着物の裾をギュッと握りしめる手は震えている。 自分が生きていることに対しての不安。 それはどの苦痛よりも堪え難い恐怖として意識の中に植え付けられる。 「……大丈夫、大丈夫だから。 エルフィスは独りじゃないから。 オレは…ここにいるよ」 孤独に震える身体を、ゆっくりと抱きしめる。 拭い去れない恐怖感からか、エルフィスの肩が一瞬大きく揺れ、フェイトの温かさに僅かに身を強張らせたのがわかった。 「…まだ信じるのが怖いなら信じなくてもいい。信じられるようになるまで……こうしてるから」 「…………。」
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

826人が本棚に入れています
本棚に追加