826人が本棚に入れています
本棚に追加
「………えと…正直に…言っちゃっていいの?」
「え?いやまぁ…何て言ってるか知りたいわけだし♪」
何故か戸惑うエルフィスに、フェイトは逃がさないようにガッシリと黒猫を固定し、満面の笑みで答えた。
必死にフェイトの顔を爪で攻撃しようとする黒猫だが、フェイトは器用にその攻撃を避けている。
「で!?何て言ってんの?」
「………………。」
ヴニャアウ!ニャガウ!
「…………あの…」
「うんうん」
「…………『いきなり抱き着いてきてんじゃねー!離せこのオレンジ変態低悩野郎』……って言ってる…」
「……あぁ……そう…」
腕の中の黒猫を一瞥し、先程までの興奮が一気に冷めたフェイト。
静かに離してやれば、黒猫は瞬く間にフェイトの腕から逃れ、エルフィスの足元へと避難した。
……よほどこの猫はフェイトが嫌いなのか。
離れてもなお、フェイトに向かって威嚇する黒猫に、エルフィスはなんだか複雑な心境を抱く。
「フェイトォー!フェイトォー!!どこに行っちゃったんだー!?そろそろ帰るぞー!」
「…!……あ…」
屋敷から聞こえてきた馬鹿デカイ声。
これは紛れも無く、あの騒がしいフェイトの父親の声だった。
なんだかんだで、あれから随分と時間が経ってしまっている。
花壇の花を揺らす風は昼間よりも冷たく、思わずフェイトは身震いしてしまった。
早く温かい室内に戻りたい……。
そう思って慌ててベンチから飛び降り、室内へ続くドアに駆け寄ろうとした時、
「……もう……帰っちゃうの?」
淋しげな瞳でそう尋ねられ、フェイトは走りだそうとした足をその場で止めた。
「……エルフィス……」
「…………。」
一瞬父親や母親、それからジークに頼んでエルフィスの屋敷に泊めてもらおうか……などと考えたフェイトだったが、恐らく……というより絶対に無理な話だろう。
今日はクロフォード家に仕えてくれている執事のロビンの誕生日。
屋敷に戻ったら誕生日パーティーを執り行う予定なのだ。
それにジークに迷惑をかけるから、という理由で親が許してくれるはずがない。
しかしだからといって、このままエルフィスと別れるのも、なんだか気が引ける。
次はいつ会えるかなんて、自分にはわからないのだから。
そう思案していたフェイトだったが…
「…あ!そーだ!エルフィス、それじゃあオレと“約束”しよう!」
最初のコメントを投稿しよう!