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「…………。」
先程はあっさり約束を交わしてしまったが、冷静に分析してしまった今のエルフィスにとっては、この目の前の指は警戒心を起こすものでしかない。
こんな果たされること自体が奇跡のような確率の低い約束、そんなものをして何の意味があるというのか。
結局また、やっぱり嘘だったんだと後悔して傷つくはめになるのではないのか。
「……エルフィス?」
「…………。」
「……よいしょっと」
「…あ、あの……!」
なかなか小指を差し出さないエルフィスに、待ちきれなくなったフェイトはエルフィスの手をつかんで無理矢理小指を絡めた。
自分と違う温かい手に、少し戸惑いながらも聞こえてくる唄。
「指切りげんまん♪嘘ついたら針千本飲ーます♪指切った♪…はい、終わり」
「あ……」
勝手に交わされてしまった約束。
ただのフェイトからの一方的な……
いや、違う。
指切りの唄を聞いている時、その指を無理にでも離そうとしなかった自分がいた。
そして…
ちょっとだけ嬉しかった自分も。
なんだかんだで、やっぱり2つの約束を信じようとしている。
「それじゃ、次会った時はバッチリ、カッコよくプロポーズしちゃうからさ!心の準備しといてな♪」
「…………うん。断る予定だけど」
「え゛!?ちょっ、エルフィス!なんで!?」
「だって普通に女の子と結婚したいもん」
「む~……まぁでもいつか必ず惚れさせる!!」
「……無理だよ、たぶん」
「あ!たぶん、ってことは可能性はゼロじゃないじゃんか!」
「…………じゃあ絶対に無理」
「エルフィス~……オレみたいな男を泣かせるなんて悪い女だな……」
「ボクは男だよ!!」
近付く足音。
それは別れが迫ることを暗示している。
「フェイトゥオー!!ここに居たのか!父さんはそりゃもう……全力で探したぞ!ほら、おかげで腕の筋肉が前より増え……」
「それじゃあエルフィス、また今度!」
「……うん」
「あ、エルフィス君!うちのフェイトが何か迷惑かけたりしな―…」
「してない!ほら、母さん待たせてるんだから早く歩けっつーの!」
中に入ろうとした直前に中庭の方を振り返ってみれば、小さくこちらに手を振るエルフィスがフェイトにはハッキリと見えた。
―…振り返って見た君の顔は、あの時確かに、笑っていた。
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