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「……あ、あれ?」
先程までとは全く違う教室の雰囲気に、ライは思わず愕然としてしまった。
入学式が終わって教室に戻り、担任の先生からの挨拶があって……
そこで『誰か資料を進路室まで取りに行ってくれないか』という話があったのだ。
誰も手を挙げないので自分が引き受け、地図を見ながら進路室までたどり着き、そして戻ってきた結果が……
これだ。
「ねぇねぇ、アドレス教えて?」
「いいよー。あ、ケータイ色違いだ!」
「ホントだー!すっごーい!」
「え!?マジ?オレもサッカー部希望!」
「じゃあ来週からの仮入、一緒に参加しようぜ」
「今年の入試さー、難しかったよな」
「おまえ何点?」
「オレ434点」
「マジ!?オレ420点だった。なんか今年は満点合格者がいるらしいぜ?」
「うわっ、そいつ相当キモいな!」
「…………。」
先生は姿を消しており、教室内はすでにいくつかのグループに分かれて大賑わいとなっている。
これは俗にいう……
乗り遅れた、というやつだろう。
「……(ど、どうしよう……)」
とりあえず持って来た荷物は教卓の上に置き、アドレス交換に夢中になっている人達の邪魔にならないよう、なるべく端の方を歩いて自分の席へと戻る。
席は窓際の後ろから3番目。
椅子を引き、その席に腰掛けると、ちょうどこの席からは校庭の桜の木がよく見え、のどかな4月の風景を目の前に映し出した。
四方八方に伸びた枝は小鳥がやって来る度に揺れ、時折吹く風には、その先端の花びらを鮮やかに舞い上げる。
この風景に誘われるまま、どこか教室の喧騒が遠くに聞こえ、ぼんやりと窓の外を眺めていたライだが……
「あ゛!?馴れ馴れしく話し掛けてくんじゃねぇアマ!」
……とても高校生活初日とは思えない、遠慮も何もない荒々しい発言が、突然ライの耳に飛び込んできた。
「私はただ、アドレスを知りたいなって……」
「ハァ?そんなの教える義理ねぇだろが。自分で鏡を見てから言えボケ!」
さりげなく視線をやれば、そこにはいかにもガラの悪そうな少年が一人。
頭には蜘蛛(くも)の模様が入った黒いバンダナを巻き、入学式だったというのにネクタイは校則違反の黒のネクタイ。
顔はそこらのアイドルよりも売れそうな、やや吊目気味のクールそうな美形。
ただ……周囲の生徒達と比較すると、背はかなり低いように見える。
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