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「あのさ、オレ、シドっていうんだけど……」
前の席に逆向きに座り、椅子の背もたれを抱えるようにしてこちらを向く緑の髪の少年。
その顔に思わずジッと見入ってしまうライだったが……
「ん?オレの顔、なんかついてるか?」
「……あ、いや……何も……」
これはツッコミを入れるべきか否か、迷った末にそう返した。
何かついてるも何も……
耳やら額(ひたい)やら……
大量にピアスがついているような気がするのは、はたしてライの気のせいなのだろうか……。
「それよりさ、こんなとこで何やってんだよ?自分から動かないと仲良くなれねーぜ?ほら、オレはクラス全員分のアドレス、ゲット済み。あとはおまえだけなんだよな」
シルバーのケータイを開き、アドレス帳を見せてくるシドというらしい緑髪の少年。
見た目は怖そうな感じだが、どうやらノリのいい話しやすそうな人柄のようである。
「つーわけでさ、アドレス教えてくんね?」
「あ、うん……」
「あ!ケータイ、ドコモバンク使ってんだ?てゆーかさ、名前まだ聞いてないんだけど……」
「……ライ」
「ライ?じゃあこれからよろしくな、ライ」
突然のことすぎて戸惑いが多かったけれど、これはきっと友達になろうという証。
そう汲み取ったライは、優しく微笑み、頷いた。
……やっぱり友達は欲しくて、こんな自分でも声を掛けてくれたのが嬉しくて……
子供みたいに、心の中で無邪気に喜んでいる自分。
こんな気持ちは、いつぶりだろうか。
「この後さ、食堂でクラスの親睦会があんだろ?そん時に一緒に食べねぇ?」
「え……あの……オレでいいの?」
「何言ってんだよ、オレが誘ってんのに。
じゃあ決まりな!なんかライって友達いなさそうだからさ、他の奴らも誘っとくよ。そうすりゃ他の奴とも友達になれんだろ?」
「……う、うん」
友達がいなさそう、とは余計な言葉だが、事実なのだから仕方ない。
むしろシドのそういった対応に感謝しつつ、ライは赤外線通信中のケータイの画面を見つめた。
そして通信の完了が画面越しに告げられ、シドに礼を言おうとしたライだったが……
「おら席につけー!HRの続きするぞー!」
戻ってきた担任が発した言葉によって、シドは慌ただしく自分の席に戻って行き、結局タイミングを失ってしまったライは言えなかった言葉を自分の中に飲み込むしかなかった。
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