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「あ、いや……法律はねぇけどさ……」
グレンの勢いに圧されて押し黙るシド。
どうやらグレンは会ったばかりだというのに、早速ライのことが嫌いになったらしかった。
『失せろ』と言われても動こうにも動けず、ライはただ箸(はし)を持ったまま茫然とラーメンを眺める。
……背中に突き刺さるクラスメイト達の視線が痛い。
「おい、またシカトする気か?失せろって言ってんだろーがボケ!」
「…………あの……オレは……」
「あ゛?」
「オレは……グレン君とも、仲良くなりたい」
「…………は?」
「正直言うと、一緒に食べることになった時は怖いし関わりたくないな、って思ったけどさ……」
「…………。」
「やっぱり人は見た目じゃないから。仲良くなってグレン君のこと、もっと知りたいし……」
「………………。」
テーブルに肘(ひじ)をつき、手の平に顎(あご)を乗っけて急に黙りこんだグレンを、シドとジェイは横目でさりげなく様子を窺った。
……どこかライを試すような、そんな視線でライを眺め、ライはグレンの視線を真っ直ぐと受け止めている。
「…………わかった。てめぇがそう言うなら仲良くしてやってもいいぜ?」
「……え?ホントに?」
しばらくの沈黙が続いた後、突然そう切り出したグレンに、ライは瞳を輝かせた。
だが、途端にジェイは嫌な予感が頭を過ぎる。
中学校で3年間グレンと一緒だったジェイからしてみれば、このグレンの言動はかなりおかしい。
何か企んでいるのではないかと思い、探るようにグレンの行動を観察していれば、喜ぶライを前に、グレンは何故かテーブルの中央に置かれたタバスコを手に取った。
そのグレンの行動に、ジェイが声をかけようとした、その時―……
「ただし、このタバスコラーメンを完食出来たらの話だけどな」
「…………え?」
キョトン、とした表情のライの目の前で、勢いよく丼の中へと注がれるタバスコ。
ダバダバと音をたてて流れる赤い液体を、グレン以外の3人は為す術なく見守る。
……適量分使えるように食堂で用意されたスポイトは、どうやら出番はないのだろう。
「おら、食えよ。お友達になって欲しいんだろ?」
「…………。」
空になった瓶(びん)をテーブルの中央に戻し、グレンは満足げに笑う。
ライのラーメンは一瞬にして赤く染まり、タバスコ独特の臭いがツンと鼻をついた。
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