花は折りたし梢は高し

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「オレ水持って来る!」 苦しそうなライを見るとシドは慌てて席を立ち、厨房の方へと駆けて行く。 ジェイは少しでも楽になるようにライの背中をさすってやったりしていたのだが、ライは箸をつかむと再び麺をすすりだした。 必死に止めにかかるジェイだが、ライは全くと言っていいほど聞く耳を持たない。 周囲もざわつき始め、シドが水の入った大きなジョッキを持って来ても、グレンはただ動くことなく立ち尽くしていた。 おぼんは持ったまま、茫然と……目の前の光景が信じられなくて……。 「なにやってるんだ!!」 不意に食堂どころか校舎全体に響き渡りそうな声がし、クラスメート全員の視線が一斉に入口に注がれた。 そこにいたのは入学式用のスーツを着た担任のレグルス先生。 その表情からしても、相当ご立腹であるのが窺える。 先程までの食堂内の騒がしさは鳴りをひそめ、レグルスが一人一人の顔を確認するように見渡すと、皆はレグルスから視線を背けるように、今度はライ達のテーブルの方へと視線をやった。 するとレグルスは剣幕はそのままに、大股でこちらに向かって歩いてくる。 「……なんだこれは」 タバスコ唐辛子ラーメンを見ると、彼の目は不愉快そうに細められ、何も言えずに顔を見合わせるシドとジェイ。 必死すぎて気付いていないのか、ライはまだ麺を口に押し込んでいる。 「……っケホ、ケホ!!ゲホッ!……う゛っ……」 「ライ!だから止めろって―……」 「保健室に連れて行け!初日から早々、問題を起こすんじゃない!」 「……は、はい」 声を張り上げた担任の一言と、苦しそうに口元を押さえてうずくまるライの様子に後押しされ、シドとジェイは慌ててライの腕をつかみ、引きずるようにして食堂から出て行った。 微妙な空気に包まれた食堂で、グレンは1人……3人の背中を見守る。 程なくして徐々に活気は満ちていったが、彼の耳には、誰の声も届くことはなかった。 「あらあら、口の中が少し腫れちゃってるわね。相当痛かったんじゃない?」 ペンライトでライの口の中を覗いていた保健医は、それをしまうと机上の書類に万年筆を走らせる。 黒いレザーで覆われた長椅子に座るライは、シドからペットボトルの水をもらうと、それを凄い勢いで飲み始めた。 やることのないジェイは勝手に体重計に乗り、かなり増えてしまっていた体重に顔を引き攣らせている。
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