花は折りたし梢は高し

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「腫れが引くようには出来るけど、まだちょっと痛むかもしれないから……なるべく辛い物は食べないように。わかった?」 光の術者である保健医から治療を受けながら、ライはこくこくと頷いた。 首元にあてられた光は痛みを緩和し、口の中の腫れが引いていくのがわかる。 「はい、終わり!」 そう言うと同時に保健医の手はライの首から離れ、彼女は再び机へと向き直って書類作成に取り組み始めた。 どうやら『保健だより』という全校生徒に配られる手紙の締切が迫っているらしい。 「あの……ありがとうございます」 「いいのよ、これが仕事なんだから」 マグカップの中のスプーンをカチャカチャと音を立てながら回し、コーヒーを一口すすると、保健医はそうポツリと呟いた。 そして万年筆を持つ手を休めると、ライの方を向き、意地悪そうな笑みをその顔に浮かべる。 「それにしても……初日からレグルス先生怒らせるなんて、あんまり悪戯(いたずら)しちゃダメよ?今の2年生みたいに目つけられるわよ?」 「あ、いや……悪戯とかのつもりはなくて……」 「ふふ、ならいいけど。どっかの悪戯小僧みたいに、社会科の先生の机にカエルなんて入れちゃわないようにね?」 「カエル……ですか?」 思い出し笑いなのだろうか、クスクスと笑っている保健医に尋ねてみたが、彼女はそれ以上のことは口にはしなかった。 首を傾げ、シドに貰ったペットボトルの水を一口飲むと、ライは気晴らしに窓の外を眺める。 「……(怒ってるかな……グレン君)」 ヒラヒラと舞う桜の花びらを見つめながら、ため息と共にライは視線を伏せた。 ……せっかく友達になれるチャンスをくれたのに、自分は果たすことが出来なかった。 そのうえ騒動を起こして保健室に運ばれるという失態。 さらに嫌われたのではないかと思うと心が重くなる。 そんなネガティブオーラを漂わせているライを遠くから見つめていたシドだが、彼はふと視線を感じ、保健室の入口を振り返った。 すると入口のドアが僅かに開いていて、その隙間から赤い瞳が、こちらの様子を窺うように覗き込んでいるのに気付く。 「……(あれ?グレンの奴、何やってんだ?)」 その赤い瞳の主がグレンであると、すぐに勘付いたシドは、しばらくグレンを眺めてみることにした。 ……どうやら視線から察するに、ライの様子を見に来たのだろう。
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