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「……なんでアイツ、ライのカバンなんて持ってたんだ?」
ライの隣に座り、ジェイは訝しげにライのカバンをジロジロと眺めた。
シドも首を傾げ、勝手に放置されていた椅子を引っ張ってくると、それに腰かけてジェイと同様にライのカバンを見遣る。
よくわからない沈黙に包まれたまま、3人共がカバンに視線を注いでいると、不意にノックの音が外から聞こえてきた。
「はーい、どうぞー」
いまいち空気を読みきれていないらしい保健医の明るい声と共に、扉がゆっくりと開けられる。
何気なく入口に視線を移した3人だったが、そのスーツ姿を見た瞬間、思わず姿勢を正してしまっていた。
「……せ、先生?」
「どうだ、ライ。もう大丈夫なのか?」
「……はい」
先程の担任の剣幕を思い出し、怯えているジェイとシドに反して、ライは申し訳なさそうに俯き答える。
それに担任のレグルスはやや大きめの咳(せき)ばらいを1つすると、慎重な物言いでライに尋ねてきた。
「……グレンからカバンは受け取ったか?」
「……え?」
「保健室まで届けに来てくれただろう?」
「…………。」
ポカンとした顔をする3人を見て、もう一度尋ね返したレグルスだったが、返ってきたのは無言。
それには思わず眉を寄せ、顔を見合わせている3人に、ポツリ、ポツリと状況を説明し始めた。
「……HRが終わった後に……誰かライのカバンを保健室に届けてくれって言ったんだけどな。その時にグレンが真っ先に手を挙げてくれたんだ」
「…………。」
「それで頼んだんだが……来てないのか?」
「…………。」
再び3人の視線がカバンへと戻る。
べつに疑っているわけではないのだが、ライは何と無くカバンのファスナーに手をかけ、横に引っ張って中を覗いてみた。
すると筆記用具しか入っていなかったはずのカバンには、何十枚というプリントが1枚1枚丁寧に折り畳まれて綺麗に収まっている。
そのプリントは今後の予定やら、教科ごとの予習の仕方やら、そういった物ばかりで、おそらく帰りのHRで配られたプリントなのだろう。
「なんだ、カバンを受け取っていたのか?紛らわしい反応をするんじゃない!まったく……」
「あの……先生、このプリントって……」
「それもグレンがやってくれたみたいだぞ。今日にでも、御礼を言っておいたらどうだ?確かグレンも学生寮に入っていたはずだからな」
「…………。」
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