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「明日は9時に登校だ。間違えるなよ」
それだけ言うとレグルスは入口の扉を開け、保健室から出て行った。
……新入生の担任ということで仕事が山のようにあるのだろう。
慌ただしく走る足音がここにまで聞こえてきている。
「…………。」
茫然とカバンの中を見ていたライは顔を上げ、2人の反応を盗み見てみたが、シドもジェイも呆気にとられたような顔をしてカバンを覗き込んでいる。
そしてここでやっと、シドが一言。
「…………うわ、キモっ」
「……オレが?」
「いやいやライじゃないって。この大量のプリントを1ミリ違わず綺麗に折ってるグレンが」
「アイツってさ、中学の頃からこうなんだよ。変なとこで几帳面っつーか」
てっきりシドにキモい呼ばわりされたのかと思ったライだったが、どうやらシドはプリントのことを言っているらしかった。
ジェイは折り畳まれたプリントをつっつきながら、1人でグレンの中学時代を語っている。
「それよかさ、グレンの奴……心配してんだな、ライのこと」
「……そう……かな。でも顔も見たくないって……」
「あれは挨拶みたいなもんだって。オレなんて10回以上言われてるぜ?」
ケラケラ笑いながらジェイはライの背中を叩く。
不安が拭えないままプリントに視線を落としていると、座っていたシドは立ち上がり、大きく伸びをした。
「さて……と。グレンの奴、オレとジェイのカバンは持って来てくれなかったのかよー」
「オレらは怪我人じゃねーだろ?」
「仕方ない、教室に戻るか。じゃあライ、そこで待ってろよ?」
「……え?」
「『え?』って……オレらと帰りたくないのか?」
「あ…………一緒に帰って……いいの?」
「なに女々しいこと言ってんだよ。オレ達もうダチじゃんか」
「…………。」
シドの言葉に、一瞬ライの頭の中が真っ白になる。
……友達って、こんなに簡単にできるものなのだろうか。
何の警戒心も持たずにあっさりと自分を受け入れたシドに、なんだか拍子ぬけしてしまう。
「先に帰ったら明日マクドおごらせるからなー」
「おいジェイ、マクドじゃなくてマックだろ」
「マクドだマクド!なんだよマックって!全然略してねぇよ」
「マックだろ」
「マクドだって」
くだらない口喧嘩をしながら保健室から出ていく2人を、ライは何も言わずに見送る。
……少しだけでも、自分は普通の高校生に近づけているのだろうか。
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