花は折りたし梢は高し

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息はもうとっくに上がっていた。 誰もここまでは追い掛けて来ないと知っていながらも、何故か足が止まらなかった。 綺麗な桜並木にも目もくれず、ただひたすら走っていた足がやっと止まったのは、学生寮に続く上り坂の半分まで差し掛かったところだった。 姿勢を低くし、乱れた息を整える。 同じく学生寮に行こうとしているのであろう周囲の学生達は、突然走ってきて立ち止まった自分を何事かと見つめていた。 緑のネクタイをした新入生の集団は、真新しい制服を見て声を掛けてこようとしたが……蜘蛛柄のバンダナとネクタイを見て、関わらない方がいいと判断したらしい。 そのまま何も言わずに横を通り過ぎて行く。 「……(マジでウゼェ)」 表面状は舌打ちだけをかまし、グレンは心の中で呟いた。 誰に対してでもなく……というより、自分でも何がウザイのか、よくわかっていないのがグレンの正直な気持ち。 チラチラと見ながら通り過ぎていく周囲の人間でもなく、かと言って追い掛けてこようとしたシド達でもない。 ……ライとかいう、自分が大嫌いな金髪でもなかった。 気付けば好き勝手なことを言って逃げ出していた、自分。 きっとこの苛立ちはそれが原因なのだろう。 大きく息を吐き出すと、グレンはゆっくりと坂を上り始めた。 桜の花が嫌でも目の前にちらつき、すでに地に落ちた黒ずんだ花びらを踏みしめながら歩けば、やがて坂の頂上へと辿り着く。 同時に暖かい風が吹き抜け、町を一望できる所に建った桜高の男子学生寮が、その壁の白いタイルと共に姿を現した。 「……(今日はさっさと寝るか)」 いつも見ていたテレビ番組も見る気になれない。 こういう日は何もしないのが1番。 そう考え、学生寮の門をくぐって郵便受けを確認しようとしたところ…… 「……ちっ、ガキか?」 外から響いてきた盛大な泣き声に、グレンは舌打ちをしつつ門の外を覗き込んだ。 するといつの間にやって来たのか、そこには小さな子供が1人、人目を気にすることなく泣いている。 その泣き声に顔を鹿目つつ、早々と部屋に戻りたいと思うグレンだったが、何故か足が動かなかった。 青い髪の少年をチラリと見ただけで、通り過ぎていく人々。 誰1人からも声を掛けられることもなく、泣きながら取り残されている少年。 「…………。」
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