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しかし自分には関係ないと、グレンもまた、踵(きびす)を返して学生寮の中へと戻って行く。
と、その時。
「おがあざん、おがぁざん、どこぉ!?」
聞こえてきた少年の叫び声に、再びグレンの足は止められた。
体はエレベーターの方を向いているのに、視線は泳ぎ始めている。
しかし正直な話、さっさと部屋に戻りたいわけで……
「おがぁざんっ!!」
「………………ちっ!!」
忌ま忌ましげに勢いよく舌打ちをかますと、グレンは乱暴な動作で振り返り、大股でその少年に近付いていった。
すると少年はグレンに気付いたらしい。
泣くのをピタリと止め、真っ赤になった目で見上げてくる。
しかし勢いそのままに少年の元へと来てしまったグレンだったが、その後どうすればいいのか、そこまでは全く考えていなかった。
「…………。」
「…………。」
「………………。」
「………………。」
微妙な沈黙。
こういう時はどう声を掛けるべきなのか、優等生のような模範は頭に浮かぶが、それを声に出せるほど素直ではない自分。
「…………おい」
「…………。」
「……テメェは……」
「……お兄ちゃん、だれ?」
「あ゛!?誰だっていいだろーが!こんな所でビービー泣いてんじゃねぇ!クソガキ!!」
「っ!……う゛……おがっ……おがあざーん!!びえぇぇ!!」
「……!!……(や……やっちまった……)」
最初よりも一層酷く泣き出した子供に、グレンは後退りをしつつ早くも後悔していた。
人間には向き、不向きがあるのだということを身をもって実感させられた気がする。
そして何より、まるで自分が泣かせたかのような周囲からの視線が痛い。
……まぁ事実、ここまで泣かせたのはグレンなのだが。
「……お、おい……ガキ……」
「びええぇぇ!!」
「あ゛ー……その……」
「おがぁざん!!」
グレンのイライラメーターはとっくに振り切れているが、怒鳴れば泣き出すとわかった以上、ここは我慢するしかない。
そして何とか話を聞いてもらえそうな話題を考え、グレンの頭に過ぎったのは……
「おい、母親を……探してんだろ?」
これだった。
母親を探し求めるような発言からして、迷子であるというのは予想がついていたのだ。
「…………ひっく……お兄ちゃん……おかーさん、知ってるの?」
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