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「もしもーし!見学なんですけどー!」
本日何度目かの言葉を言い、ドアを叩くジェイ。
すると中から聞こえてきていた賑やかさがピタリと止み、ドアの向こう側に人の気配を感じた。
と、すぐさま中からドアが開けられる。
「あ、あの!見学に―……」
瞬間、ジェイの笑顔が石像のごとく固まった。
……無理もない。
中から出て来たのは……
人間ではなかったのだから。
いや、細かく言えば中身は人間なのであろうが。
「…………。」
「…………キュー」
「…………。」
「……キュー、キュー」
「………………。」
入口をデカデカと塞いで立っているのは、二足歩行のピンクのウサギ……もとい、ウサギの着ぐるみ。
はたしてウサギが『キュー』と鳴くかは不明だが、このウサギの着ぐるみは可愛らしく、そんなことを言っている。
反応に困っているライとジェイの目の前で、ウサギは左右に揺れ動きながら一歩、前に出た。
そして……
「キュッキュ、キュー!」
意味不明な鳴き声をあげながら勢いよくドアに何かを貼付け、そのまま何事も無かったかのように部室の中へと素早く戻って行った。
「…………。」
バタン、というドアの閉まる音に続き、鍵のかかった音まで聞こえる。
また元通りの景色に戻ってしまったが、閉まったドアには先程の、ウサギが貼って行った紙が貼られている。
とりあえずその貼り紙に、ライとジェイが目を向けると……
『新入生お断り!!見学もお断り!!訪れた奴は順番に、ウサギちゃんがフルボッコ★』
というメッセージが書かれていた。
横には下手くそなウサギのイラストまで付いている。
「…………。」
「……他の部活の方が……いいんじゃない?」
「そう……だな。付き合わせて悪かったな、ライ」
「いや、大丈夫だよ。貴重な経験……できたし」
この時のライの顔が引き攣っていたのは、言うまでもない。
もっとも、かく言うジェイも、ライに負けず劣らず第2軽音部という存在にドン引きしていたが……。
「マンゴーとイチゴミルク」
「はいよ、400円ね……毎度あり」
「おら、さっさと食え」
黄色いマンゴー味のアイスクリームを子供に手渡すと、グレンは自分の分のアイスを手にしたまま、近くのベンチへと腰掛けた。
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