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これでもかと思うほど植え付けられた桜の木。
普通の公園よりも多めに設置されたベンチ。
オマケに桜の名所であるということをデカデカと強調した看板……。
この町の職員がいかに観光に力を入れているのか、見ているだけで思い知らされる光景に、桜の綺麗さよりも、グレンはそんな政治的なことを考えてしまう。
「(つーか見張りの1人くらい用意しとけボケ!)」
もぬけの殻になっていた交番に舌打ちをかまし、勢いよくイチゴミルク味のアイスに噛り付く。
イチゴの甘酸っぱさと、まろやかなミルクの味が口の中に広がり、やや気をよくしたグレンだが、合成着色料を懸念してか、訝しげな眼差しをピンクのアイスへと向ける。
と、その時。
「今度はバニラがいい!」
「……おいガキ、テメェには遠慮っつー言葉が頭ん中に入ってねぇのか?」
「なに?えんりょって」
「遠く慮(おもんぱか)るって書いて遠慮っつーんだよ!覚――」
「バニラー!バニラー!」
「………………ちっ!おら、テメェで買ってこい!」
騒ぎだした子供に200円を渡すと、子供はお金を握りしめたまま、先程のアイス屋へと走って行ってしまった。
そもそも小さい子に遠慮なんて単語はインプットされていないだろうなんて、今になって思えば当たり前なのかもしれない。
「びえぇぇ!!アイスー!!」
「…………。」
この声は、きっと幻聴というやつだ。
そう言い聞かせるが、やはり視線は動いてしまう。
そして動いた視線の先。
そこには……
アイスを持ったまま転んでいる子供と、ズボンの一部が真っ白になっている高校生の姿。
よりにもよって制服にアイスをぶちまけるとは、なんだか頭が痛くなる。
そんな痛い頭の中で、クリーニング代を計算しつつ立ち上がって近寄ってみると……
「テメェは……」
「あ、グレン君……」
「アイスー!!」
「あ、ゴ、ゴメン。えーと……はい、200円。これで新しいの買えるかな」
「……うん」
「ちゃんと転ばないように気をつけるんだよ?」
「うん!」
「…………。」
金髪に映える青い瞳。
緑のネクタイ。
自分と同じ桜高の制服。
グレンが現在最も嫌っている男子生徒、堂々No.1のこの人物……。
「えと……グレン君……。オレ、ライっていうんだけど……覚えてる……かな?」
「…………。」
「あの、今日食堂で一緒だった――」
「ウゼェ奴」
「……う、うん」
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