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「……それじゃ……あの……また……今度」
「…………。」
「……グレン君も、帰り……気をつけて……」
それだけ言うと逃げるようにして背を向け、この場から立ち去って行くライ。
何かその背中に声を掛けようとしたのだが、結局は何も言わぬまま黙って見送るしかなかった。
と、不意に先程の少年がライを追い掛け、ガッシリと足を掴む。
「お兄ちゃん!お母さん、どこにいるの?」
「……え?」
「お母さん。小さいお兄ちゃんと探してるのに、どこにもいないの」
あまりに少なすぎる説明に一瞬戸惑ったライだったが、すぐにこの少年が言いたいことを察知したらしい。
そして迷子ともなれば、お人よしのライが黙って見過ごすわけがないのだ。
しゃがみ込んで子供と視線を合わせると、ライは出来るだけ優しく、ゆっくりとした口調で話し掛けた。
「……お母さんとは、どこで離れちゃったの?」
「お買い物してたとき。ネコさんが歩いてたからね、ついてったらお母さん、いなくなってたの」
「お母さんの髪の色はどんな色?」
「長くてね、茶色いの。お兄ちゃんよりずっと長い」
「お母さんの着ていたお洋服、覚えてる?」
「真っ白なの。長くて真っ白いスカート」
「うん。そっか。よく覚えてたね。ありがとう」
頭を下げて御礼を言うと、男の子は満足そうにベンチへと走って行った。
ベンチの下に転がっていた木の枝を掴むと、それでガリガリと地面に絵を描き始める。
「…………。」
「…………。」
気まずい沈黙。
こちらを見ていたグレンと思わず目が合ってしまった。
どうしようかと悩むライに、グレンは直ぐさま視線を逸らすと近くのベンチに腰掛ける。
とりあえず沈黙を凌ぐためにも、ライは水呑場に向かうと持っていたハンカチを濡らし、アイスで汚れてしまったズボンの応急処置に取り掛かった。
しかしこんな汚れなんて取りきれるわけがなく、結局はクリーニングに頼るしかない。
となると、今ここで出来る応急処置なんてたかが知れているわけで……
「あの……隣……いい……かな……?」
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