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その対立する存在が今、互いの前にいるのだ。
黒を基調とした揃いの衣装こそが、『源』の兵であるとわからせる。
相手が気付いているのかはわからない。しかし、二人は相手が敵だとわかっている。
今は大事の前。事を大きくするわけにはいかない時期であり、本来ならば相手に残る印象自体薄ければ薄いほどよい。うまくこの危機を脱しねばならないのだ。
それに、今一戦交えたとしても、相手は十人程もいる。紫丞だけならば逃げの一手でどうにでも出来たかもしれない。しかし、綾がいる。分が悪すぎるのだ。
「わかった、わかった。女、そんなに男に手を上げるな。見苦しいぞ」
声を掛けてきた男の後ろにいた男がそう言ってきた。
男の言葉が気に入らなかったのだろう。綾は一瞬、男を睨み付ける仕草を見せた。
「すみません。お騒がせして。こいつにもちゃんと言っておきますから」
すかさず紫丞が綾の頭を押さえ、強引に頭を下げさせた。
「それじゃ、失礼いたします」
そう言うと、何度も頭を下げ、紫丞と綾は歩を前に進めようとした。
「行け。先程、人斬りがあったようだから、貴様のように女に頭が上がらんやつは夜中に外を出歩くな」
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