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長髪の男は、短髪の男の言葉を無視するかのように桶に溜まった水に両手を浸け、互いの手を擦り付けひたすら洗い続けている。
共に年は二十歳程であろうか。濡れた着物の奥に引き締まった体が見える。
「ありがとうとか、もう少しなんか言えんのかお前は?」
呆れた顔をして短髪の男は髪を拭く手の動きを止めていた。しかし、長髪の男を見つめる瞳はどこか寂しげであり、無理に長髪の男へ言葉を投げかけているようでもある。
「そんなんだと、女も寄ってこんぞ」
それでも反応を見せない長髪の男を見て、短髪の男は大きなため息をついていた。
「あのな、もう少し……」
「あんたら何してるの……?」
短髪の男の言葉をさえぎる突然の声。
「綾!?」
短髪の男が驚きの声をあげ、素早く後ろを振り向いている。
長髪の男は振り返ることはしなかったものの、桶に浸けた手は動きを止めていた。
「また斬ったの……?」
綾と呼ばれた女性は冷たい表情を崩すことなく言い放つ。
柱に体を預け腕を組む姿勢は、とても女性らしいとは言えぬ態度だ。
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