消えぬ匂い

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「やっぱり……。玄達がそんなに長く洗う時はいつもそう。人を斬ったとき……」  優しく、しかし、悲しさのこもった視線と共に、綾は言葉を投げ掛けた。玄達の事を良く知っている。普段から気に掛けいるからこそ気付いたのだろう。 「だから何だ? わかっていたなら聞かなくてもいいだろ」  相変わらず振り向く事もしない玄達の声には、微かに苛立ちが乗せられている。綾に見透かされたのが気に入らないのだろうか。玄達は綾の優しさを受け入れるつもりがないようだ。 「何その言い方! 私は……私は心配して言ってるのに! だいたい、赤城さんだって今は動く時期じゃないって言ってるじゃない! それなのにあんた達は!」  顔を真っ赤に染めた綾の瞳からは、今にも涙が溢れんばかりである。 「俺達がすることは綾、お前には関係ないことだ。これ以上話す必要もない」 「関係ない!? ……わかったわよ! もう知らない! 勝手にすれば!」  玄達の突っぱねる様な返事に、綾は怒りを込めて言葉を返すと、そのまま二人が入ってきた扉から外へと出ていってしまった。扉を閉める際の激しい音からも、綾の怒りがどれ程か容易に想像がつく。  ただ、外へ出たのは溢れ出した涙を見せない為だったのかもしれない。  二人のやりとりを空気の様になっていた紫丞は、激しく閉じられた扉の音で我に返っていた。
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