消えぬ匂い

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 二人は向かい合っているが、玄達はうつ向いたまま話を続けていた。 「俺はいつ死ぬかわかりません。父さんの形見のこれを使うと決めたとき、覚悟も決めました」  そう言いながら、玄達は腰に差している封龍刀に視線を向け手をかけた。 「だからこそ、俺は綾の気持ちに応えるわけにはいきません……いつ死ぬかもわからないような俺じゃなく、普通に幸せになれるようなやつに」  そう言い終わると、玄達は顔を上げ楓を見つめた。寂しげな瞳と共に。 「なるほどな。それで綾に対して、あんな態度を取るわけか。玄達らしいが……それはあまりにも一方的すぎじゃないか?」 「一方的……ですか?」 「ああ。玄達お前の本音は違うとしても、そう思っているのなら綾に伝えるべきだと俺は思うがな」  そう言うと、楓は床に腰を下ろし、玄達にも座るように手を上から下へと動かした。  玄達も近くにあった切り株を引き寄せると、腰掛けがわりに使い腰を下ろす。 「綾に伝えろというのは、強要するわけではないからな。一つの助言として心にとめておいてくれたらいい」
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