消えぬ匂い

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 そう言う楓の顔から次第に険しさが消え穏やかな表情へと変化していく。 「はい。しかし、俺は今のこの考えは変えるつもりはないです」 「わかっているよ。頑固なとこは隊長にそっくりだよな」  玄達のいつもと変わらない口調からの言葉を聞いて、楓は苦笑しながらそう言った。 「市川さんは父さんの隊でしたよね」  この日、初めて玄達は笑顔を見せた。父親の話しになると自然に笑みがこぼれるのだ。  その父親は、十五年前の封龍戦争時に亡くなっている。  玄達自身、父親は憧れであり、目標でもあった。父親と同じ赤纏隊の隊服を纏い、共に戦いに身を投じる事は夢であり、そうなる事が当たり前だと思っていたのだ。  あの日までは。封龍戦争の最中、父親は玄達の元へ帰って来ることはなかった。命を落としたのだ。  帰ってきたのは今玄達が手にしている封龍刀、赤雲(せきうん)のみ。 「隊長には世話になったからな。だから、玄達のことほっとけないのかもな」 「迷惑ばかりかけてるような気がしますが」
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