消えぬ匂い 二

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 激しい雨が未だに降り続き、辺りの土と混じり地面には小さな川が出来上がっている。  綾はずぶ濡れになりながら立ち尽くしていた。着物が雨に濡れ、重たく綾にのし掛かる。  家を飛び出し、気が付いたときにはここにいた。 「風邪ひくぞ。戻ろう綾」  後ろから追ってきた紫丞はそう言うと、静かに綾に傘を開き差し出した。  そういう紫丞もずぶ濡れである。 「何であんたが来るのよ……私は玄達に来てもらいたかったのに!」  眉間にしわをよせ目を閉じ、舌を出しながら発した言葉から怒りは感じられない。 「はぁ!? せっかく心配して来たのにそれかよ。玄達も綾もありがとうも言えんのか。傘、俺が使うぞ」 少々、大袈裟に反応してみせた紫丞は肩を落とし顔をひきつらせている。 「冗談、冗談。ありがとう紫丞。」 慌てて傘の下に入ると綾は笑顔を作った。その様子は極々一般的な女の子である。 「最初からそう言えばもう少し可愛げも感じるんだけどな」 紫丞も笑顔を浮かべそう切り返した。
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