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この雨の為だろうか。二人は男達の接近にまったく気付いていなかった。
「す、すみません。こいつと喧嘩してしまいまして。家を飛び出したんで追い掛けてきて、帰る途中なんですよ」
紫丞は動揺することなく、あくまでも低姿勢で綾を指差しながら答える。
綾も紫丞の機転に反応すると、
「違うんですよ! 私が悪いんじゃないんです! あんたが他の女に手出すからでしょ!」
紫丞のほほを手加減することなくひっぱたきながら言葉を発する。叩かれた紫丞はほほを押さえ何やら言い返そうとしている。
ところが二人の表情とは違い、その鼓動はせわしく動いている。
少しでも疑われるわけにはいかないのだ。すでに声を掛けられたのだから、疑われていないわけではないだろうが。
それには理由がある。二人は言わば旧王家側の人間だ。そして、目の前にいる男達は現国家『源』の人間なのである。
それでなくても各地で反乱が起き、その度に鎮圧をするということが繰り返されている。
『源』から見れば今なお国に混乱を撒き散らす旧王家側生き残りの人間は、邪魔で仕方ないのだ。本来ならば国内の安定に回すはずの財源を鎮圧へ回していては、若き『源』という国はいつまでたっても成長へとは向かわず、下手をすれば退化してしまうこともあるのだから。
逆に旧王家側の人間からすれば、『源』は国を滅ぼした憎き相手でなのである。
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