794人が本棚に入れています
本棚に追加
そう言うと、明は上着の内側から一通の文を取り出し、葵へ手渡した。渡したといえど、その行為は無造作に投げ渡すという随分乱暴な渡し方ではあったが。
肝心の葵はそんな事は日常茶飯事とばかりに気にも止めず、渡された文を広げ、素早く目を走らせる。
「赤眉に戻った際には皆で飲もう……か。相変わらずのようだな」
葵は文から視線を外しそう言った。弾んだ声が葵の心情を表している。
「じいさんと会うのは……大戦以来か?」
「そう……なるな。大戦が終わる前に別れて、それからだからな」
お互い、自然と笑みがこぼれる。二人の微笑みは柔らかく先程言い争った面影など見えはしない。
葵は再び自分の背中を静かに照らす月に振り返った。
(あれから十五年か……)
十五年前と変わらぬ月を見上げ、遠い記憶を思い出していた。
ただ必死に己の想いのため、信念のために駆け抜けたあの暗く熱き時代を……
十五年前、戦争があった。
大陸でもっとも東に位置するこの地を深紅の血が川を染め大地を染めた争いは、三年に渡って繰り広げられた。
多くの人々から大切な物を、人を奪い去った争いは、いにしえの王国の終焉によって終わりを告げた。
最初のコメントを投稿しよう!