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腕を、少し動かしただけで――どこからか滴った血液が、手を濡らす。
指の中に絡む血液が感じられる。
零れたばかりの血液はまだ温かい。
少し粘り気のある血液は、生きた人間の身体に直接手を突っ込んだようで――手探りなのだから、あるいは本当にその通りかもしれない。
この身体のどこが傷つけられたのかも、分からないままなんだから。
「…………」
……腕を動かすと、倒れてきた死体も、それに従った動きをみせる。
自身の意思で動くことをやめた身体が、胸の上を滑る。
腕の中で身じろぎでもされたような感覚なのに――身体と身体の間にある血液が、その可能性を絶対的に否定する。
生温かい血液は、外気に触れてしばらくすると冷たくなる。
冷えた血液はもう、感覚の上ではただの水と変わらない。
……そう錯覚できたらいいのに――せっかく何も見えなくて、血液の色を見ずに済むのに――血の臭いが圧倒的に全身へとぶつかってくる。
「…………」
……左腕を動かすと、動かなくなった死体の胴を撫でる。
血液に濡れた服は、もうほとんど冷たくなっていた。
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