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白い夏に雪が降る―――
「……雪?」
空を見上げる男は戦場に一人残され、倒壊しかけている瓦礫にもたれかかっていた。
両足にはいくつもの弾痕。傷口を抑える手は血で染まり、周りには血溜まりが出来ていた。
足は、使えそうにない。
白い結晶はゆっくりと降ってきた――
男は血に染まった右手でそっと、一粒の結晶を掬った。
白い結晶は血の朱に染まることなく、リンと白く残っていた。
その差し出した右手の雪の向こう。瓦礫の上に黒い少年がいた。
その黒い少年にも一粒の結晶が降り行く――
男は近くに倒れる、死に絶えた戦友の銃を左手でキツく握った。
構えた銃のスコープの先、黒い少年を見た。
少年は白い結晶を掬い、小さく笑っていた――
急に眩暈がした。意識が朦朧とし銃が手から滑り落ちた。
ふと前を見ると黒い少年はそこにいた。
右手に持つ白く小さな結晶を、男の手へとゆっくり雪を降らせた。
『さぁ、もうおやすみ。』
黒い少年の声は今まで聞いたことのないような不思議な声だった。体中から力が抜けていくように、声は響いて消えた。
男は声に誘われ、ゆっくりと力なく目蓋を落としていく。
白い結晶をその手に載せて…
『行こう。命の旅は今から始まるんだ。』
力なく体を瓦礫に預け目蓋を落とした旅人を、黒い少年は見送った。
―――――リーン。
―――――リーン。
鈴のような音は2回響いて消えた。
男が目を覚ますことは二度と無かった。
眠りながらゆっくりと、旅を終えたのだ…
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