盈月 <文語体>

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盈月 <文語体>

月の餘(あま)りに冴える夜であります。 空氣は深深と冷えてをり、寒色は皮膚を突き破り、心の臓をまでも染め上げて仕舞ふ。 月は玲瓏とした吐息を吐き出しては、それは凍えた矢となつて靜かに舞ひ降りる。 己が周りを白濁とした、それでゐて透明な光で侵略し、 夜の青を辱めては、天空でほくそ笑んでゐるのだ。 何と孤高な望月であらうか。 月よ。 わたくしは今まさに恋に堕ちた。 月下氷人に請ひ願ふ。 孤月黄金(きん)に輝き、我が四肢遥か彼方。 お前のその誇り高き心髄に惹かれてゐると云ふ。 千里月、決して届くことのない唄を詠ふよ。 聞いてくれ、訊かないでくれ。 嗚呼、盈月(えいげつ)。 貴方は清らか過ぎた。 ††††††††† ※盈月…満月の意。
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