裏切りメロゴニー <文語体>

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裏切りメロゴニー <文語体>

裏切つたのか。 鬱鬱とした氣分で然う、呟いた。 正方形をした部屋には私と其れしか居らず、狹き四角の彼方此方に陰が燈つてゐた。 「だつたら如何だつて云ふんだ」 其れは私とは逆に愉しそうに云つた。 裏切つた折の負ひ目や罪惡感等は感じてゐないやうだった。 「うふふ」 愉しいのか。 愉しいのだらう。 だからと云つて、別に如何しやうもない。 別に如何しやうも出來ないさ。 「然う、」 其れは興味の無さそうに相槌を打つた。 誰も座つていない椅子がカタリと動いた。 判つてゐるさ。 私とお前との間には何の契約も無かつただらう。 共に縛らるることも無く。 「然うだよ。」 其れは何故か優しく云つた。 ならば裏切るも何も無いと云ひたいのだらう? 其れでも矢張り、 裏切られた氣持ちは變はらない。
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