30人が本棚に入れています
本棚に追加
曼珠沙華 <文語体>
ぱあんと、爆(は)ぜた樣に見えた。
赤い花が膨張して、鮮やかな音と共に破裂して仕舞つた――樣に見えたのだ。
――嗚呼、幻だと云ふのだらう?
私にも現(うつつ)だと云ふ自信が無いのだ。
さう、彼處(あそこ)にゐる貴女が、幻でないと云ひ切れないのだ――。
貴女は、眞(ま)つ赤な曼珠沙華に圍(かこ)まれて、獨(ひと)り佇んでゐる。
「彼岸(ひがん)と此岸(しがん)を繋ぐのよ」
何を尋ねるでもなく、貴女はさう云つた。
秋風は脚と脚の間をすり拔(ぬ)けては、赤い花を搖(ゆ)らした。
「彼(あ)の人に逢はなくては――」
曼珠沙華――彼岸と此岸の通ひ径――別名、死人花。
――此岸に在り乍ら、彼岸に憧れる華よ――
最初のコメントを投稿しよう!