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「っ…!!…は…っ…!」
船の出航の音が聞こえる。
その音はこの古びた灯りの無い工場で無様にもこだまする。
下を見ると、コンクリートが朱に染まっている。
倒れ落ちかけた実華がすばやい反応で両手を支えて立とうとした。
生ぬるいその血は勇哉のものか燎汰のものか。
不思議と嫌悪感は無かった。
大切な親友の血だからか、気に出来ないほど今の状況に混乱しているのか。
「…勇哉…っ!!燎汰ぁ…!!!」
先程まで背を向けて共に戦っていた親友が倒れている。
そんな酷いことをしたのは実華の目の前にいる鬼のような顔をしているこの男。
そんな憎い男は実華を嘲笑うかのように喉を鳴らしている。
何がいけなかったのだろうか、何処で間違ってしまったのだろうか。
黙って目を閉じた実華に男は女子供関係無く痛めつける。
実華の押し殺した悲鳴が静かな工場でこだまする。
何もかもを絶望しかけた実華に彼女の名前を誰か呼んだ。
実華はその人の声をよく知っている。
月の光が実華に微笑みかける。
─*
"桐咲実華"
市では知らない人はまず居ないだろう。
何故かって…?
それは簡単。
家族が変わっているから。
変というより普通じゃないのだ。
それはこの家族は"ヤンキー"一家だからだ。
父は全国統一をした元"怒鬼"の総長。勿論今は落ち着いている強面のサラリーマン。
そして母は実家が大手携帯会社の社長令嬢の四女。かなりの天然で良く家族が問題に巻き込まれる。
そして長男の"桐咲陸斗"。
家族の中で最も確りした存在で冷静沈着。"霧龍"の総長で19歳。現在は高校中退してから鳶職で頑張っている。
次に次男の"桐咲托斗"
金髪でピアスは左耳に四つ、見た目はチャラ男。かなりの酒好きで酔うとめちゃくちゃ甘えん坊になる。そして"虎豹"の総長で18歳。
毎日が波乱万丈な桐咲家です。
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