ボイジャー

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いつしか少年は、大人になりました。 そして無人の探査機を打ち上げるプロジェクトに携わることになりました。 その探査機には黄金色のレコードが取り付けられました。 いつか、どこかの誰かが拾ってくれたときに「地球」という星のことを知ってもらうために。 拾われる可能性の少ない、奇跡的に拾われても何万年も後になるそのレコードのことを、「意味がない」と笑う者もいました。 確かに、実用性は何もない試みだったでしょう。それでも人々は、そのレコードを遠い宇宙に向けて放ちたいと思ったのです。 無人探査機は、『海を行く者』と名づけられました。 『海を行く者』は4つの惑星が一列に並んだ、170数年に一度のその年に打ち上げられました。 遠く遠く、どこまでも遠く、太陽系すらも突き抜けて進むことの出来るように。 いつしか大人になった少年は、老人になりました。 孫に星や宇宙の話をしてやると、孫は決まって目を輝かせてたずねるのです。 「うちゅうじんはいるの?」 と。そんなとき、老人になった少年は笑って答えるのです。 「きっといるだろう。広い宇宙に、生き物がいる星は地球だけだなんて、さみしすぎるじゃないか。 悲しいことがあって、夜空を見上げているうちに泣き止むことがあるなら、それはどこか遠い星の子が、お前に『泣かないで』って言っているからかもしれないよ」 『海を行く者』は、今は太陽系を抜けてどこを旅しているのでしょうか。 昔少年だった老人は、今でもふと星空を見上げて思うのです。 遠い星に住む、泣いている誰かさんを思うのです。 「君に会える日は来なくても、ずっと君のことを思っているよ。 何万年かかっても構わないさ。 もし声が届いたなら、どうか返事をしておくれ。 君が泣き止んでくれるといいのだが」
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