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「終わった宿題全部持った?」
「持った」
「お土産は?」
「持った」
「忘れ物はない?」
「大丈夫」
母との問答はもう何度目か分からない。
「もし忘れ物に気付いたら、連絡くれれば僕が持っていくから」
麗奈とは一日遅れで出発する予定の萩は、母と麗奈を安心させるようにそう言った。
今日、麗奈はこの村を出る。
別に初めての旅立ちというわけではなく帰省を終えて下宿先に戻るだけなのだが、家族総出で盛大な見送りとなって少々気恥ずかしいことになっていた。
「もー、みんな大袈裟だよ」
「寂しいのよ、家族が一人いないと」
拗ねたような母の言葉が、どこか嬉しい。
荷物を父の車に積み込んで、助手席に乗り込む。
「華奈、シンくんと仲良くね。勇太は、ルゥくんやリルくんと仲良くね」
「お姉ちゃんも、民宿の人たちによろしくね」
以前よりも少し成長した妹や弟と挨拶を交わすと、その次に車に寄ってきたのは萩だった。
「萩は、明日戻るんだっけ? 気を付けてね」
「うん、ありがとう。麗奈も無事に帰りつけるように」
車の窓から、萩が右手を差し入れる。不思議に思いながら、また握手かなと握り返して。
(……あれ?)
なんだかその光景に既視感を覚えて、麗奈は首を傾げた。
「ねえ、前にもこんなことあったっけ?」
「……あったのかもね?」
軽く握手をしてすぐに窓から出て行ったその手の主は、なぜだか泣きそうな顔をしているように見えた。
「萩?」
「じゃあ、また明日ね!」
萩はいつも通りの笑顔でそう言って、車から距離を取った。明日には民宿で再会するのだし、感傷的になるような場面でもなかったはず。きっと気のせいだったのだろう。
「気を付けて、いってらっしゃい」
「行ってきます!」
最後に元気にそう告げると、麗奈を乗せた父の車は田舎道を走り出した。
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