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田園風景を車でしばらく走れば、また小さな無人駅から電車での長旅が始まる。それまではしばしの休憩だ。
運転席の父はいつも通りの態度で、それでも少しだけ名残惜しむような話をぽつぽつと振って来る。
父の話に相槌を打ちながら、麗奈はポケットから一枚の写真を取り出した。倉庫を整理していた時に出てきた写真のうちの一枚だ。
父と母、そして萩。幼い自分を取り囲む三人の優しい笑顔と、シャッターを切った祖母の存在。いつも見守っていてくれる人たち。
ふと、帰りを待ってくれているであろう今の同居人たちの顔が思い浮かんで、麗奈は自分が早くあの民宿に帰りたくなっているのだということに気付いた。
町に戻ったら学校の授業が待っている。
妖の存在や萩の正体を知ってから初めての帰省だったけれど、新たな発見や出会いも多く密度の高い正月休みだった。
「……早く皆に会いたいけど授業始まるのやだなあ」
学生ならではの複雑な思いを抱えつつ、麗奈はこの車を降りてから始まる長い旅と、新年の学校生活に想いを馳せた。
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