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「ヒッ!!」
ベッドの上、昇ったばかりの太陽の光に照らされ、首にあてた銀がキラリと光る。
いくら生命力の高いヴァンパイアだといっても、正確に頸動脈を捉えられればどうしようもない。それがナイフであれば、後は死を待つだけだ。
引きつった悲鳴を上げた男を完璧に押さえ込む女の姿が、朝日に照らされ露わになる。
サラリと揺れる白銀の髪は、きらきらと光を反射する。しかし、美しい髪の輝きとは真逆、男を見つめる黒い瞳には光はなく、冷たい闇が広がっている。
彼女に押さえつけられた男の他に、部屋にはあと二人いる。一人は入口の扉付近で意識をとうに失っており、もう一人はウォルトに押さえ込まれ、狼の鋭い牙に身動きを封じられている。
彼女、ミズキは無言で、恐怖で固まる男の首にあてた銀に更に力を入れる。彼女の瞳に色はなく、ただただ深い闇が広がる。
「そこまでにしておけ」
その言葉と共に、自分に向けられて発せられる魔力を感じ、ミズキは男から退き距離を取る。
視線の先を自分に襲いかかってきた男から、入口に立つ自分とは正反対の色を持つ男へと移す。彼の髪もまた、朝日に照らされきらきらと輝いていた。
「お前等には後で話を聞く」
彼は軽く腕を振れば、意識のあった二人は、まるで糸の切れた人形のようにパタリと床に伏す。ウォルトも男が動かなくなったのを確認すると、サッとミズキを守るように移動する。
「そんなに睨むなよ。いくら大事な妻の寝込みを襲った奴だろうと、殺させるわけにはいかない」
冷たいミズキの視線に怖じむことなく、ヴォリアは愉しげな笑みを浮かべる。
「流石俺の女だと褒めてやりたいとこだが、そのナイフ、何処で仕入れた?」
ほんの数時間前に、ヴォリアは彼女が持つ武器を全て取り上げた筈だった。今彼女が持つのは弾のない銃だけ。ナイフなど与えた覚えはない。
彼の疑問に応えるように、ミズキは銀を握る右手を前に出す。
そして、握り締めていた手を緩めれば、中にあったそれは重力に従って下にゆく。
シャラッと軽い音を奏で、二人の眼前でそれは揺れる。
「ナイフじゃないわ」
トップにあしらわれたそれは、とてもナイフには見えない。
「……クロスのチョーカー?」
驚きに目を丸くするヴォリアの前で、銀でできた十字架は太陽の光を受けてキラリと反射する。
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