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「それで? こんな時間に貴方自ら訪ねてくるなんて、一体何のよう?」
「夫が妻を訪ねるのに理由は必要か?」
ヴォリアの軽口に対して、ミズキの険しい顔は変わらない。未だ警戒心を露わにしたまま彼を冷たく睨む。
「王候補ともあろう男が夜這い? それとも、私がお仲間のヴァンパイアを殺さないか見張りにでも来たの?」
城内にハンターがいるというだけでも狙われる可能性が高いというのに、ミズキは敵であるヴァンパイア達に啖呵を切った。狙われぬ筈がない。しかしヴォリアに守られ、且つ凄腕のハンターであるミズキを殺す隙は多くはない。彼女が一人になり、気を緩ませる時など限られており、寝静まった早朝に狙われるであろうことは、もはや決定事項。それぐらい、ヴォリアにも分かっていた筈だ。
案の定、ヴォリアは笑みを崩さず、それどころかクスクスと声を漏らして笑っている。
「逆だ。お前が魔力や武器の使用を封じられた所で、そう簡単に負ける筈がないだろうが、そんな状態でどこまでやれるか興味があった。少しぐらい此処での態度を改めるきっかけになるかと思ったが、どうやら心配無用だったようだな」
たった一度、剣を合わせただけの関係。しかもその一度は一対大勢。噂では聞いていても、ヴォリアはミズキの実力を未だ測り切れていなかった。彼女の戦闘スタイルもよく知らず、だからこそ、様々なハンデを負った彼女がどう戦うのかに興味があった。
「もし、私が負けてたらどうする気だったの?」
「お前は負けなかった。それで十分だろう?」
答えとは言えない答えを聞き、彼女はそれ以上考えることを止めた。
「用が済んだのならソレを回収して出て行ってくれる?」
ソレ、と彼女が顎で指したのは床に伸びている三人のヴァンパイア。
「夫婦の初夜だってのにつれねぇなぁ」
そうは言いながらもヴォリアは魔法で意識のない三人を持ち上げる。
「貴方と夫婦になった覚えはないわ」
「そんな態度でいられるのも今だけだ」
そう告げると、ヴォリアは腕を振り、三人を部屋の外へと追いやる。その動きとは反対に、彼自身はミズキに向かって歩を進める。
「まだ、何かよう?」
朝日に照らされ、彼女の銀髪はきらきらと輝きを見せる。その光に目を細めながら、ヴォリアはミズキの前に立つ。壁とヴォリアに挟まれる形になったミズキだが、それでも決して目を逸らすことなく、ただ彼を見つめて問う。
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