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「何でって…君のために…」
「私のため?自分のためじゃないの?」
彼女は卑屈な笑顔を僕に見せた
「お金貰えるからでしょ?私の話を聞くのも仕事だからでしょ?」
「そんなわけないよ。僕は君の病気を…」
「何?あなたのおかげで私は今生きているとでも言うの?あげく、『僕は人を救ったんだ』とか偽善に酔い痴れるんじゃないの?」
こんな患者は初めてだった
しかし、ここでうろたえるようではこの仕事はやっていけない
「じゃあ、君は何故ここを訪れたんだい?何か聞いてほしい話があったんじゃないかな?」
するとその子は途端に黙り込んでしまった
きっと照れ隠しだったんだろう
しかし、次に彼女の口から出た言葉に僕は耳を疑った
「私、最悪の場合、死のうと思うの」
「死ぬだなんてそんな軽々しく言うもんじゃないよ?」
「私だって死にたくない。でも人といることに疲れたの。クラスの連中だってどうせ死なれたら不気味だからって理由で近寄って来るのよ」
「どうしてそう言い切れるんだい?」
「そうに決まってる。だから私は一人で生きなきゃダメなの。誰も信用出来ないから。だから先生に聞きたいことがあって来たの」
「なんだい?」
「兎心症の人が一人で生きた前例ってある?」
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