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キリキリ…―――――ザシュッ
一本の弓を引き放つ音がしんとした空気の中に響いた。
弓道場に他の誰かの姿は無く、ただオレは黙々とそれを引いては放つ
もう陽も大分暮れて辺りを橙色に染め上げていた。
「……寮に戻るか」
手の甲で額に浮かぶ汗を軽く拭き取りながら1人、ポツリと呟いた。
着替えを済ませ弓道場に一礼をして寮へ戻る為に帰路につく
…と
私立撫子学園の校門の前に見知った人影
「……瀬名」
「遅いぞ。理世」
茶色の長い髪が風に揺れ、妖しく光るエメラルドのような瞳がオレへ視線を向ける
「…ごめん」
「主のオレを待たせるなんて従のくせに生意気だな」
ふん…と鼻をならして面倒くさそうな顔した瀬名は踵を返し、さっさと歩き出してしまう
「…誰が待っててなんて云ったよ。…この俺様野郎」
「なにか云ったか理世」
「べーつに。なんでも」
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